敵あるいはフォー

 ロビンソン・クルーソーとフライデーが暮らしている孤島にイギリス人女性(スーザン)が漂流する。フライデーとともに国に帰った彼女は作家ダニエル・フォー(本名はデフォーでなくフォーらしい)に冒険譚の執筆を依頼する。フォーは物語をでっち上げようとする。物語が現実を無視していることへの糾弾の書なのかと思ったが、後半になってこの物語自体クッツェーという作家によって書かれた物語にすぎないいう自意識が強まり、存在すべての根拠が怪しくなっていく。全編スーザンの視点によって語られていく(言葉が記されていく)わけだが、彼女の傍らには舌を抜かれて言葉がしゃべれず、文字も書けないフライデーがいる。言葉によって成立していたスーザンの存在の根拠を最も危うくしたあげく、最終章の幻想的な(じっさい幻想)、フライデーの体の中から何かが流れ出てきて、「私(スーザン)」の瞼と皮膚を打つという終わり方は、西欧的視点を解体する別の、広大で語られる価値のある物語の存在を強く印象づけている。foeは普通名詞で「敵」という意味もあるよう。
ISBN:4560044716


id:vigo:20050301#p3 『エリザベス・コステロ
id:vigo:20050224#p1 "Youth"
id:vigo:20041108#p2 『マイケル・K』
id:vigo:20041110#p2 『マイケル・K』(引用)
id:vigo:20050116#p1 『敵あるいはフォー』
id:vigo:20050112#p1 『ロビンソン・クルーソー』(デ・フォー)
id:vigo:20041231#p3 『石の女』
id:vigo:20041225#p3 『ダスクランド』