灯台へ

まず一人の知覚があって、知覚された対象を媒介として他の人物の知覚へと滑らかに移行する。そういった主観と主観は相反する時もあるだろう。が、「世界」は寂しくも一つある。複数人による意識の流れといった文体がまず酔わせる。
「世界」の描写。240ページから242ページにわたる風の描写、すばらしい。過ぎ去りゆく時の忘却を未然に防ぐためにも、きたるべき時を真摯に見つめよう。

ウルフの自伝的要素が色濃い『灯台へ』、翻訳の妙もあったろうで美しい一遍です。原著はおろか、みすず書房の伊吹知勢訳、新潮社の中村佐喜子訳も読みたくなるほど。

陽光の当たる明るい場所から深淵まで届く暗い立坑(シャフト)の中ほどに、苦く黒く、たぶん一滴(ひとしずく)の涙が生まれる。(p.52)

灯台へ (岩波文庫)

灯台へ (岩波文庫)